
日本企業にとって、グローバル化の一つのサンプルとなるのが韓国のサムスンだ。「サムスンは先進国の富裕層から新興国の中・低所得層まで、世界のあらゆる階層に合わせた機能、価格帯の商品を送り出しています。こうしたグローバル戦略を支えるのが人材育成。その象徴が『地域専門家制度』です」。
この制度は、入社5年以降の若手社員を各国に一年間派遣させるもの。この間、給料は保証されるが、業務の義務はなく、自主的に計画を立て、家探しから、語学習得、人脈づくりなど、その国で生きていく術を身につけなくてはならない。「それによって現地社会に溶け込み、文化・習慣を体得します。それを製品開発や販売促進に活かしてきたわけです」。
人材戦略を長期的な視野で行っているのも特徴だ。「サムスンの地域専門家制度は1990年から始まり、既に20年以上続けられてきました。1年に150名から200名、述べ4000名が海外各国で苦闘した結果です。グローバル人材育成には継続性が必須であることがわかります」。
もちろん日本企業も海外事業のための人材育成をしてきた。パナソニックは新卒採用の7割以上を外国人にし、ソニーは3割に増やした。ファーストリテイリングも新卒社員の半数から8割を外国人にしている。研修においても、新入社員全員を対象とした1カ月間の海外語学研修(クボタ)、新入社員を中国やインドへ2週間の研修に出す(テイジン)、多国籍の中堅社員からなるチームによるトレーニングの実施(クラレ)、入社4年目以降の社員を中国やシンガポールに2年半派遣する(富士ゼロックス)など、さまざまなグローバル人材の育成が行われている。
人材開発に関する調査・研究を行っている産労総合研究所によれば、企業の研修費用予算は増加傾向にあり、グローバル展開を図る企業の4社に1社が海外研修を実施し、7社に1社が今後海外研修を実施予定だ。
しかし全体として見れば日本企業は、リーマンショックの影響もあって守りに入ってしまい、海外駐在員を引き上げたり、中途半端な現地化を図ったために、本社と現地との連携がうまくいかないなどの問題も起こっている。「本社主導でグローバル戦略に取り組み、中・長期的な視野で人材を育成しなければ、これからの日本企業は勝ち抜けないと思います」。